高校生最後の夏休み

僕が高校生の頃、ある男の登場によりキックボクシングが少しずつ人気を取り戻していた。その昔沢村忠の時代にはキックの人気はもの凄く、ゴールデンでテレビ放映され視聴率もかなりのものだったと言うが、その後はまさにマイナースポーツそのものとなっていた。
キックは集客の問題で東京でしか興行を打てなくなっていたが、少しずつ沸き起こるブームに、ここが勝負と地方進出に打って出ようとしていた(ある男が言い出したのだが)。その第一弾として名古屋進出、格闘技通信の企画で東京と大阪からのバスツアーが組まれた。ちょうど高校が夏休みに入った僕達は、東京に遊びに行きそのツアーに参加しようと企てた。友達二人はゴルフ場でキャディーのアルバイトをしてその旅行資金を貯めた。僕は何もしなかった。
バス代とチケット代、試合の後の選手も参加する打ち上げ代込みで3万円と高いのか安いのか妥当であるのか、まあとにかく僕らはそれに参加した。そして打ち上げでの写真が格闘技通信に載り、さらに秋田から参加ということで密航者として名前まで載った。友達は格闘技通信のその号を嬉しくて2冊も買っていた。試合は面白く非常に盛り上がったし、東京見物も面白く良い思い出となったが、一番笑ってしまったのはモーリススミスというキックボクサーと一緒に撮った写真で、キャディーのアルバイトで日焼けした友達の方が黒人であるスミスより黒かったことだ。これは最高に爆笑だった。
当時は行くか行かないかで迷ったりもしたが、今思えばもっと色々と行っとけば良かったと思うし、もっとバカもやっとけば良かったかなと。

僕達が東京にいたその夏、ヒクソングレイシーが埼玉でトーナメントに参加し完勝の連続で優勝した。その大会も見に行けばよかったとそれだけは後悔している。