オンザロード78「水芭蕉の花は咲いていなかったがもっと輝いた何かが咲いていた」

尾瀬沼から戻ってきた僕に、さっきのおばちゃん軍団とは違うまた別のおばちゃんが、「水芭蕉はキレイでしたか?」と聞いてきた。「いや、まだ咲いてなかったですね」と僕。そしたらおばちゃん「あら、やっぱり行かなくて良かったわね」と来た。あなたに行ける道のりではないですよ、と抗議の一つもしたかったが、まあそれは僕の胸の内に。僕が体験したこの道のりは、僕の、僕だけの宝物だから。
それにしても凄まじい道のりだった。スニーカーにТシャツで行くのは無謀過ぎた。途中で会った中年夫婦は、スキーウェアに登山靴、ストックを持っていた。僕のことを、どう思っただろうか。多分、舐めているなとイラッとしたかも。それも仕方がない。僕はただの観光客だった。でも、途中からはハイカーになれたと思う。中年夫婦も認めてくれたかな。
途中出現した雪壁は、僕の身長よりも高かったし、それをよじ登り、その高さの雪の群れが道であったのだ。あれを渡り、よくぞまあ、自分で自分を褒められる頑張りだった。熊本城や姫路城や、平戸で歩いたよりも遥かに、比較にならないほどに大変だった。それは距離ももちろんだったが、砂利から始まりまさかの雪道に突入したことが理由だろう。過酷な道。水芭蕉の花はなかったが、もっと輝いた何かが咲いていた。