オンザロード85「それは、僕の人生の前半の、ラストシーンであったかもしれない」

三郷市に来た。懐かしき、あの頃のままの風景。操車場前を越え、中川を越え、ファミリーマートを左に曲がり、懐かしの作業場に辿り着く。ここは八潮市。サトサンは相変わらずのバカっぷりだった。トササンはトレードマークのヒゲを剃っていた。ササキチサンは親方の陰口を言っているのがバレてクビになったらしい。スズサンは競馬会社で加入者からお金を引っ張ろうとして詐欺でパクられたらしい。フィリピン人のジョンはいなくなっていた。代わりに何人かのフィピン人がいた。トササンが彼らに、僕のことを「先輩だ」と紹介してくれて少々照れ臭かった。
話を聞けばここの作業場は、夏には壊され線路が敷かれるらしい。もう半年遅くここに来ていたとしたら、工事現場の風景に僕は呆然と立ち尽くしたことだろう。
そしてなんと、隣接する宿舎は明日から解体工事が入るとのこと。僕は一日間に合ったのだ。それは一生間に合ったことと同じだった。今日来なければ、もうここの風景はなかったのだ。そこに少しの奇跡を感じた。
僕は宿舎の風呂を借りることにした。高校生の夏休みに、そして19歳の冬に、毎日入っていた風呂だった。懐かしかった。すべてが懐かしかった。まるで第二の故郷にでも来た気分だった。ここはまさにこの旅のラストシーンだ。風呂からあがると、夕日が僕のラストシーンを真っ赤に染めていた。
この旅で一番の収穫はここであったかもしれない。それは僕に、たくさんのことを一気に教えてくれた。この日の午後は、少し大袈裟かもしれないが、僕の人生の前半のラストシーンであったかもしれない。それは人生の前半のラストシーン。もうすぐ僕は、僕の人生の中盤戦に入るのかもしれない。
明日から少しずつ壊されて行く風景。そして新しい風景が建設される。でも・・・・・10年も経とうとしている2013年現在、目を閉じればあの場所は、僕の中ではあの頃のままだ。