伝説の詩誌と大詩人

伝説の詩誌「荒地」に参加していたのは、鮎川信夫田村隆一北村太郎黒田三郎などそうそうたるメンバー。「荒地」というのはもちろんT.S.エリオットの詩からきている。荒地に参加していた凄すぎるメンバーの中でも、田村隆一の存在は抜きん出ていたと思う。彼は机の上で、詩ばかりを書いてきた人間ではない。よく遊び、よく遊べ、の人間で、結婚だって何度もした。酒を飲み歩き、温泉も大好きだった。詩を書けばまさに天才。彼を真似ても、誰も田村隆一にはなれない。

彼は詩以外にも重要な言葉をたくさん残している。
老年期に言っている。
十代はすべてが未知との遭遇だ。
二十代はそれらの未知が日常化していく時。
三十代は経験や力をストックしていく時。
人生の勝負は四十代からだと思う。と。
彼が言うから深い。

十四年ほど前だったか、辻仁成が中心になって詩やロックや文学を主に扱うムック本が創刊された。その本の名が「ウエイストランド」で、日本語に訳すと「荒地」となる。伝説の詩誌「荒地」と同じだ。その創刊号の巻頭で、辻仁成田村隆一が対談する予定だった。予定だったというのは、田村隆一がその少し前に亡くなってしまったからだ。もし対談が行われていたら、田村は辻に、そして読者に何を語っただろう。辻は田村に何を聞いただろう。し人は何も語らない。し人だけがいつまでも語っている。