超多忙酒屋物語は続く・・・・

この酒屋は昔は小さな店だったとのこと。社長の父親がかなり頑張って大きくしたらしい。社長の父を、僕らはじっちゃんと呼んでいて、この時まだ健在で、隠居の身となっていたが、それでも時々店のやり方に口を出したし、大切なことは社長も相談しているようであった。僕は配達の時に財布を落としたことがあるが、このじっちゃんにいくら入っていたと聞かれ、「一万円です」と答えるとすぐに自分の財布から一万円くれたのを思い出す。なぜか僕は気に入られていたらしい。僕が辞めた時も三万円持って家に来てくれたし。けれども酒屋のじっちゃんも何年か前に亡くなったらしい。

千葉からこの地区に嫁になって来た29才の女性が、事務員をやっていた。オッチョコチョイな人で、よくヘマをしたが、明るくて優しい人だった。その頃ちょうど妊娠していたのだが、レジに立っている時にしたヘマで考えられない最大級のヘマがある。
女性のお客が店に入ってきた・・・・らしい。僕は店の奥に位置する事務所で伝票整理をしていて、事務員がレジに立った。店と事務所はドア一枚で繋がっていて、ドアは常に開け放たれ垂れ下がったのれん一枚で区切られていた。そのため事務所にいても店の声が聞こえる。女性客が欲しいものをカゴに入れてレジに並んだ。「何ヶ月ですか」と事務員の声。一瞬変な沈黙の後「妊娠していません」と女性客の声。店内の空気が凍りつき事務所まで伝播したのがはっきりと分かった。「すみませ〜ん。私自分が妊娠しているものだから誰にでも聞いてしまって。」と事務員。誰にでも聞く分けないだろ、太っていたから勘違いしたんだろ、と僕の心の声。ここで僕の悪い好奇心がどんな客だろうと疼き出す。少しフォローでもしてやるかとのれんをくぐり、店に出ると予想以上に太った客に、カゴいっぱいのお菓子、お菓子、お菓子。そりゃぁお菓子で妊娠もしますわぁと僕は吹き出してしまった。その女性客が二度と店に現れなかったことは言うまでもない。

当時33才くらいの男性従業員がいたが、いかにも元ヤンキーといった出で立ちで、一緒に飲んだこととかもあるが、急に「あのカウンターの男を殺す」とか言い出すもんだから困った。しかし本当に困ったのはお金を貸した時のことだ。どうやら多額の借金があったらしいのだが、僕にお金の無心をしてきたことがある。家に怖い人が来て、金いついつまで入れなければ子供の机も持って行くと言われたらしい。それで僕に頼って来たのだが、相当脅されたのか、かなり青い顔をして頼み込んできた。それで僕はすぐに三十万円貸した。誰にも言わない約束で(社長とかって意味だったと思うが)。二、三日して兄貴から電話が来た。「お前の酒屋にOOOっていう人いるが」と兄貴。「いるけど」。「その人さ金かしたりしてないよな」。「えっ、なんで・・・してないよ・・・貸してないよ」と僕は少し動揺した受け答え。「ならいいんだけど。もし貸してって言われても貸すなよ。かわいそうだけどその人あと何ともならないから」え〜〜何ともならないってどういうことですか〜。どうやら借金の取り立てに来た人が兄貴の知り合いだったらしい。それで取り立てに行って来たという話から、僕と同じ職場の人と知り慌てて電話を寄こしたらしい。電話の最後に兄貴が「もし貸しちゃってれば俺取っやろうかと思ってだった」と言った。アンタ、何ともならない人からどうやって(どれだけ恐ろしい方法で)取ろうと言うんですかぁ〜と叫びたい気分だった。お金の方はというと、一応約束から半年遅れで返してもらった。

高校生のアルバイトもたくさん楽しい子達がいたなぁ。僕はもう高校生ではないんだということをここで自覚したように思う。久々に今度焼酎でも買いに行って見ようかと思う。