映画館にだけはよく連れて行ってくれた

子供の頃、特別どこかへ連れて行ってもらった記憶がない。今とは時代が違うと言えるかもしれない。それでも一度や二度くらいは、家族で泊まり掛けでどこかへ遊びに行くものじゃないだろうか。海には、何度か連れて行ってもらったように思う。あと、雪のかまくら祭りに、母と兄と三人で行った記憶がある。途中からタクシーで行って、母が運転手に「釣りはいりません」と言い、なぜか兄が怒っていたのを憶えている。
秋田空港に父と母と兄と四人で行ったこともある。なぜ空港に行ったのかは分からない。その頃(僕が幼稚園くらいの頃)パチンコ屋にはよく連れて行かれた。それと母は映画館にはよく連れて行ってくれた。僕は家の近くの商店でお菓子をいっぱい買って、それを映画館に持って行き、バリバリ食いながら映画を観た。母は「いびきを掻いたら起こして」とすぐに寝る場合が多かった。洋画を観に行ったときには、まだほとんど字が読めない僕に、映画の間中字幕を読んでくれたりもした。兄と三人でドラえもんの映画を観に行った時、最初に飽きたのは兄の方だった。兄はすぐに飽きて、早くデパートに行きたがった。
映画館の名前は月が昇る岡というような名前だった。あの映画館の、赤い絨毯のひかれた階段を上っていく高揚感が忘れられない。まるで別世界へと上っていくような、素敵な空間だった。
中学生になった僕は、もう母と歩くことを恥ずかしいと思う様になっていて、もちろん映画を一緒に観に行くことはなくなっていた。中学生の僕は、テスト前の日曜日は部活が休みになることから、その日は必ず友達と映画を観に行った。