ハナタレ小僧がナマイキにも今日も営業について語る

お客のところに言った時点では、ほとんどの場合お客にはまったく購買意欲はない。どうやって購買意欲を生成させるか。購買意欲とは雲のようなものであり、購買意欲を掴むとは雲を掴むようなことだ。実際的には雲は掴めないもの。では何で掴むか。具体的には掴めない。ならばメタファーで掴むしかない。僕はメタファーを駆使した。メタファーを自在に操り、それによってお客の購買意欲をまるで魔法のように生成した。飛ぶように売れた。面白いように売れた。その時僕は営業マンではなく、その時僕は客に合わせて、詩人にも、絵描きにも、教授にもなった。上手に商品の説明をすることなど、ほとんど使わなかった。僕は自分自身を説明し、その後に商品を出した。出しただけで、お客は欲しいと言った。商品の説明なんて、練習すれば誰でもある程度は上手くなる。こっちが喋るんじゃない。お客に喋らせるのだ。お客が喋るとなれば、つまり僕を信頼したことだ。自分自身を説明したと言ったが、それは言葉でではない。佇まいで、表情で、そして時に言葉でと言ったところだ。お客は誰にも言えないことも、いま会ったばかりの僕に喋った。僕はそれを親身に聞いた。もちろん下心ありで。一つだけ絶対にしないと決めていたことがある。それは嘘をつかないこと。平気で嘘をつく営業マンもいた。僕はこれを使ってもあまり変わらないかもしれないよ、と正直に僕の感想を述べた。お客は言う「じゃどうすればいい」。僕は言う「使わないよりは良いからとりあえず使ってみますか。もしかすれば合うかもしれないし」と。お客はもちろんそれで買った、僕を信用することと同時に。僕は心の底から、そのお客が良くなってくれれば良いなぁ願った。良くなることもあった。変わらないこともあった。
クレームの電話を寄こすお客は絶好のターゲットだった。クレームの電話を寄こす時点で、喋りたくて仕様がないのだ。上手く怒りを治めさえすれば、必ず上客へと早変わりした。
ただ僕はそれでもなんだか心苦しくて、結局辞めてしまった。僕が辞めて半年もしないうちに、尊敬する先輩も辞めた。あれから何年が経つだろうか・・・・。