ゲンスブールはコブシを高く突き上げ一人歌った

その昔フランスに、セルジュ・ゲンスブールという男がいた。歌手であり、作詞家であり、作曲家であり、俳優であり、映画監督であり、と肩書は数知れず。寺山修二は「職業寺山修二です」と言っているが、ゲンスブールもそんなところだろう。常に話題をまき続けた男ゲンスブール。アイドル歌手にアイスキャンディーを舐める歌を唄わせ、それが実は卑猥な歌だったり(アイドルは初め知らずに歌っていた、しばらくしてから知り泣き狂ったという)、テレビで紙幣を燃やしたりと。しかし彼の逸話で最も有名なのは次の話だろう(最も有名で、偉大で、素敵な話だ)。
セルジュ・ゲンスブールはフランス国家をレゲェバージョンにしたものをリリースしていた。それは右翼団体の怒りを買い、事実何度か襲撃もされている。
ある時ゲンスブールのライブ会場。例のフランス国家レゲェバージョンを唄っていたゲンスブール。それを聞きつけた右翼団体が怒り心頭ライブ会場に大挙して押し寄せた。中にはピストルを持った者もいる。騒然とする会場、バックバンドは皆ビビって舞台の袖へと逃げてしまった。一人ステージ上に残ったゲンスブール。なんとアカペラで、一人コブシを高く突き上げながらフランス国家を唄いきってしまった。いつ撃ち殺されても不思議ではないその状況の中でだ。これには怒りの右翼団体も固まり、そして皆、敬礼したという。なんと言う男か。言うならば武士道とでも言うべき、信念。カッコ良すぎるぜぇ〜(実は情けない後日談もあるのだが、それはまぁ愛嬌ということで)
最後は心筋梗塞で亡くなったゲンスブール。彼の墓はモンパルナスにあり、いまも訪れる人があとを絶たない。