君と僕の始まり(恋の伝説1)

三十歳目前の五月、僕は運送屋に就職した。早朝四時出勤の雑誌の配達から始まるものだった。初めは先輩とツーマンで、仕事を教わりながらの配達となった。
ある書店への配達の時その先輩が、「ここの店員カワイイよ」と教えてくれた。・・・・結果から言うと、その店員が僕の嫁となる分けだが、それはまだまだ先の話。何せ彼女への僕の第一印象は「はっぁはぁ、確かにカワイイけど、僕のタイプではないですな」と言うものだった。その印象は数カ月はそのままだったし。
毎日配達に行くその書店で、ほぼ毎日彼女と顔を合わせた。もちろん会えば挨拶はしたが、それ以外の会話は皆無のまま、運送屋と書店の店員、受け取りにハンコを貰うだけの関係がずっと続いていた。
その関係を打破したのは僕の行動だったが、その行動へと突き動かしたのは彼女の笑顔とそして何かだった。
ある日仕事の伝票のことでチョットだけ話しかけられた。それに少し受け答えをして、そして僕は恋に落ちた、まるで中学生のようにあっさりと。それでも僕は三十歳、それなりの経験もあり、恋など熱病でしかないことも知っており、あまり手繰り寄せられないように、なんとか熱を冷ましつつ、なんとか冷静さを保ちつつ、彼女への想いを見極めようとした。
それでも僕の想いは募った。いくら冷静を装うとも、結局はごまかしは利かなくなり、僕はどっぷりと恋に落ちた。彼女を好きになった。
彼女をご飯に誘おうと、僕は朝に声をかけることに決めた。だがその日、僕はビビって声を掛けられなかった。声を掛け、無残に振られたとして、それでも次の日も配達にそこへ行かなければならないことを思うと、僕の勇気は尻ごみをした。書店のメンバーで笑い物にされるかもしれないとか、もしかしたら社長と関係があり仕事にも支障をきたすかもしれないとか、勇気を尻込みさせるための言い分けが、次々と浮かんでは僕を雁字搦めにした。
二日目、その日も僕はビビって尻込みしてしまいそうだった。が、もう僕は、ビビってしまう自分を許そうとは思ってはいなかった。ビビっている自分と、勇気ある自分と、戦わせながら僕は一歩、負けじと一歩踏み出した。
僕「店員さん彼氏いるか?」
嫁「いや、いません」
僕「今度飯食いに行かない?」
嫁「夜とかですか?」
僕「まぁ、そうかな」
嫁「あっ・・・・はい」
僕「嫌なら、いいけど」
嫁、戸惑いながらもOK。
・・・・・・つづく。