奇跡の薔薇の咲く理由(恋の伝説5)

(デートの後に「?」をつけているのは、僕はデートのつもりだったけど、嫁からすると付き合っていないからデートではないとのことでつけています。)
いよいよ二度目の告白をする決心。彼女に話がある旨のメールを送り、待ち合わせの約束を取り付ける。その日も彼女はエステで、その後の待ち合わせ、確か夜8時の約束だったと思う。
僕は紫色のスーツを着込み、6時過ぎには家を出た。そして花屋へと向かった、薔薇の花束を買う為に。
一件目の花屋、すでに店じまいしていた。うん?他に花屋ってあったけ?・・・・駅前にそういやあったな、と言うことで駅前の花屋へ。が・・・・・ここも店じまいしていた。花屋なんて行くことないから知らなかったけど、結構店じまい早いっすね。ということで、えっ、花屋さんもう知らない。そこで一度は、花束は諦めて告白しに行こうかとも思ったが、でもやっぱり今日の告白には必要と思い直し、道行く人に尋ねてみた「この辺りにまだやっている花屋さんってありますか?」、そしたらその人親切に、「まだやっているかは分からないけどもう少し行ったところを左に折れた所に一件ありますよ」と教えてくれた。すぐに言われたとおりに行って見ると、確かに小さなプレハブの花屋が一件、だがここも同じように店の扉がもう閉じられていた。が、中に灯りがついている。僕は閉じられた扉を、思い切ってノックしてみた。そしたら中からオバさんが怪訝な表情で顔を覗かせた。
僕「あの〜薔薇の花が欲しいんですけどまだ大丈夫でしょうか?」
オバさん「はい、イイですよ。中へどうぞ」
オバさんはノックするスーツ姿の男を、不思議そうな顔で眺めた後、なんとなく何かを察したかのような表情になった。
僕「薔薇の花束プレゼント用にして欲しいんですけど」
オバさん「何色が良いかね?」
僕「逆に何色が良いですかね」
オバさん「これなんかどうですかね。これとこれと組み合わて」
僕「えーと、じゃぁ、そっちの一色でたくさんください。」
僕はオレンジに近い色の薔薇を選んだ。プロの手によって盛り付けされた花束は、確かに美しかった。スーツ、花束、勇気、これで全ては揃った。あとは告白するだけだ。花屋のオバさんにお礼を言うと、オバさんは最後に「水につけておくと一週間は咲いていますから」と教えてくれた。もしこの後フラレることになっても、この花は一週間咲き続けるのか、とその不思議さを思った。
8時までにはまだ少し時間があった。僕は正直、結構な確率でフラレるだろうと思っていた。この大恋愛が、誰にも知られずに幕を閉じるのは少し寂しいと思い、遠く離れている友達に電話をした。プルルルッ。
友達「もしもし、久しぶり、どうした?」
僕「いや大した話じゃないんだけど」
友達「うん?もしかして本出すことにでもなった?」
僕「いや、ちょっと違うんだ。好きな子出来てさ。今から告白しに行くとこなんだけど、多分フラレるかな、ってとこで誰にも知られずフラレるのもなぁと思い報告」
友達「ほうほう、何歳の人?」
僕「22歳」
友達「一番イイじゃん22歳」
僕「はぁ、そうか。ちなみに俺いま薔薇の花束抱えてスーツ着込んでる」
友達爆笑。
そして友達からのアドバイスは、僕はあまり相手の目を見て話さないから、目を見て告白してとのこと。うん、分かった。
それから少し時間が過ぎ、そしてとうとう彼女がやって来た。スーツ姿の僕を見て(あるいはメールの時点で)、どうやら察したようだった。
僕は友達のアドバイス通り、目を見て告白をしようとした。そしたら彼女、エステ帰りでスッピンの為、あまり顔を見ないでと言いやがった。友達よゴメン、アドバイスは無駄になりました。
僕は仕方がないから、少し斜め横を見ながら告白をした。前回はシンプルな告白だったが、今回は思いの丈を全部言葉にしようと決めていた。今思い出すと恥ずかしい位の熱い告白。そして薔薇の花束を渡した。
彼女は一瞬沈黙を作り、うなずいたように見えた。「あれ、今OKって言ったの?」と僕。彼女は静かにうなずく。「マジ?」。・・・・・僕の努力は報われました。僕の情熱は報われました。僕の勇気は報われました。僕の知恵は報われました。神様本当にありがとう。僕も頑張りました。

と言う分けで僕達は付き合い出したんです。それから結婚までは10カ月位のものでした。そのわずか10カ月の間にも、色々なことがありました(ホント色々あったなぁ)。そして辿りついた今日です。
あの夜のことを今思い返してみると、風も空も川も月も、みんな僕の味方をしてくれているような、そんな不思議な夜でした。すべてが僕に、少しずつ力を分け与えてくれたように思います。
そして一番不思議だったのは、あの薔薇の花です。花屋のオバさんはちゃんと水につけておけば一週間位は咲いているから、といったけれども、あの薔薇、なんと、一か月近くも咲いていました。それは奇跡の恋を象徴するかのように、凛として。