オンザロード2「五百円玉を一枚入れるごとに出発は近づく」

五百円玉貯金、実は中学生の時から高校生にかけて一度挑戦したことがあった。その時も大分頑張ったが、結局途中で開けてしまい(缶でできていて缶きりで開ける)、結果は十七万円ほどだった。それでも当時はある程度の満足感があった。十七万まで行ったという人も、僕の周りにはいなかったから、チョット自慢していたくらいだ。
それが今度は目標五十万円、つまりは満タンまでは開けないと。そしてそれが満タンになった時、僕は日本一周の旅に出かけて行くと、そう決めた分けだ。
毎日のようにコツコツと、五百円玉を貯金して行く。多い日は七枚とか入れてたのかな。それでも貯金箱は中々重くはならない。これは少々果てしないなぁと、でも気長に行こうと。決められた出発日がある分けではない。これが貯まったら行くだけだ。貯まらないならまだ行く時ではないだけ。僕はブルーハーツの「ナビゲイター」を口ずさむ。
 
 ああこの旅は 気楽な帰り道
 野たれ死んだところで 本当の故郷
 ああそうなのか そういうことなのか

そんな風に口ずさむ日々の中、少しずつではあるが、しかし着実に、旅資金は貯まって行った。そしてそれがかなりの重さになった時、僕はちょうど車の買い替え時期と言うこともあり、それまで乗っていた日産マーチを売り払って、中古のホンダオデッセイを購入した。もちろん旅へと出掛けて行く為の車だった。
オデッセイ購入の時、僕は車屋を経営している兄貴についてオークション会場まで行き、自分の目で見て選んだ。すでに八万キロほどは走行しているものだったが、値段の問題もあったのでそれに決めた。
オデッセイ購入から半年ほどが経過し、そしてとうとう貯金箱は満タンになった。しかし、「五十万円貯まる」という最初から目標が定められた貯金箱で、やっとこさここまで来て開けた時に、五十万円なかったらショックを受ける(貯金箱には五百円玉で満タンにして約五十万円貯まります、と記されていた)。だから僕は、貯金箱を振り、五百円玉を刺し込み、また振り、また刺し込みを何度も繰り返した。しかも入る入る、満タン状態からどこまで入るの?、とにかくかなりの額がそこから入った。
それでとうとう一枚の五百円玉が、顔半分しか刺さらなくなった時に、僕はそれを開けることにした。つまりは出発の時が来たのだ。