オンザロード9「道の上で眠るということ」

体はかなり疲れていた。だが、なかなか寝付けない。気持ちが興奮しているんだろうか。僕は車から降りた。この道の駅の駐車場からは海が見える。ホタルイカの里ということ。海の中でキラキラ光るのが見えるとか。月明かりに跳ね返り見えると言うことか。それとも、日中の太陽に煌めくのか。
少し周辺を散歩して見る。秋田からは遠く離れた地、ここは富山県。もちろん初めて見る風景。そこを一人トボトボと歩く。僕の足音は、本当にトボトボと響いているかのように頼りない。夜の海の闇は深い。どこまでも、どこまでも、それはまるで宇宙の果てしなさに似て、未知の恐怖を感じる。子どもの頃、父に連れて行ってもらった海で、父が話した話。海の向こうから、時々ソビエト人が泳いでくると、今思えばジョークなのだろうけど、まだ幼い僕はその話に畏怖した。ソビエト人がどうして海を泳いでくるのかとは考えなかった。ただ、突然現れるかもしれないソビエト人が堪らなく恐かった。
父はなぜそんな話をしたのだろうか。社会主義の圧制から逃れて、とかそんなことを言いたかったのだろうか。実際北朝鮮では今もある話だ。さすがに日本海全ては泳ぎきれないだろうけど。
そんな取りとめのないことを考え出すと、余計に眠気はどこかへ行ってしまった。仕方がないから僕は、海沿いをランニングし始める(何が仕方がない?)。2キロほどは走っただろうか。体は疲れている、非常に。
それでもなかなか眠れない。足はガクガクしているし、鼻水も垂れてきている。明日は体調大丈夫だろうか。それなのに眠れない。缶ビールを買っておかなかったことを後悔しながら目を閉じる。やってはこない睡魔を迎え入れる、来ない睡魔、迎え入れる、来ない睡魔・・・・・。
いつ眠ったのかは分からない。ホタルイカの波音に揺られながら、僕はいつしか、ようやっとの眠りについた。