オンザロード12「旅の原則が僕にやるべきことを教えてくれる」

早朝、僕は世界一長いベンチに座っていた。端から端まで、一体何メートルあるのだろうか。それは海沿いにずっと伸びている。途中、俵万智の短歌の立て看板があって、次のように歌っていた。
「桜貝の淡きピンクを一身に 集めて立てり浜の少女は」
俵万智って、どうしていつもあんなにも堂々としているのだろうか。みなさん、サラダ記念日って何のことか知っていますか?。とまぁ、ここは富来町。僕はこの後、兼六園へと向かう。咳が今日も少し出ている。なかなか体調は万全にはならない。
金沢市内の運転はかなり大変だった。僕は少々朝から疲れて、兼六園へと辿りついた。それは市内のほぼ中心にあったように思う。金沢城と隣り合っていて、金沢城は桜満開、素晴らしい景色を見せてくれた。それに輪をかけて兼六園の優美さは素晴らしかった。兼六園は、日本三名庭園の一つ。広さはそれほどないが、その分きっちりと管理された印象だった。
僕はここで、この旅の三大原則を決めた。それは「ひやまない」「照れない」「慌てない」。僕は面倒くさがりであり、照れ屋であり、せっかちであった。だからそれら負の部分を、原則で封印してしまおうという意図だ。それらの性格に加えて、優柔不断でもあった。兼六園の後に行った小松市のガラス美術館では、お土産を購入しようかとかなり迷った。が、旅はまだ始まったばかり、まだ早いと自分自身を引きとめ、それでも迷い、そして決めたばかりの原則を噛みしめながら念仏一つ・・・「慌てない」僕はどうにかお土産の早期購入を堪えた。
昼食はすき屋で牛丼を食った。並盛330円と安くて良い、と当時のメモ帳に記してあるが、今は並盛280円。時代の秒針はデフレを指している。
車を走らせながら、東尋坊を大分通り過ぎてしまったことに気が付く。引き返すとしたら、数十キロは引き返さなければならない。この先旅の道のりは果てしない。引き返さず進むべきか。メインは遥か遠き九州地方だ。だがここでも、原則が僕を引き止めた。「ひやまない」「照れない」「慌てない」、僕は原則の通り、ひやまずに、慌てずに、東尋坊へと引き返した。自殺の名所、東尋坊へと。