オンザロード13「越前海岸で言われたこと」

東尋坊へと続く坂道を歩きながら、自殺者は何を思いながらこの道を登るのかと考えた。家族の顔を思い浮かべるのだろうか、それとも人生の一番良き頃を思い浮かべるのか。それにしてもここには、そう言った悲壮感はまったくない。カラリと並んだお土産屋。笑顔の観光客達。
東尋坊は素敵な観光地だった。30歳位の女の人たちが二人、落ちる真似をして「火曜サスペンス」とハシャイでは写真を撮っていたし、お年寄りのツアー客もいて賑わっている感じ。・・・・それにしても引き返して来て良かった。僕の東尋坊概念は、完全に間違っていたから。
車は再び海沿いを走り始める。漁師の街であるのだろう、越前海岸には船がたくさん止まっている。その日僕は早めに温泉に入る。前日の風呂探しに難儀した経験が、突然現れた温泉へとハンドルを切らせる。「越前温泉なぎさの湯」。風呂からあがりパック牛乳を飲んでいると(カルシウムとか栄養面を考えて)、見知らぬおばあちゃんに話しかけられた。秋田から旅している事を告げると、おばあちゃんは「あら、いい身分ね」と言った。でも僕は、本当にいい身分だろうか。家に戻ればこの不景気の中、就職活動が待っているし、そうやって結局は日常の歯車の中に戻って行かなければならない。それに旅自体だって楽なことばかりではない。呑気な旅人では決してないのだ。
河野の道の駅で眠るつもりだったが、勢いで敦賀まで来てしまった。この街には道の駅がないので、テキトウな空き地を見つけて眠ることにした。缶ビールを一本飲む。・・・・眠ろうとしたが交通量が多いため、ウルサクて眠れない。移動しようにも、缶ビールを一本飲んでしまったため、それも出来ない。僕は耳を塞いで眠った、色々なことから。