オンザロード32「桜島と向き合う」

電話を寄こした友達とは、旅から戻ってから結構すぐに酒を酌み交わしたんだけれども、その時聞かれたのは「どこが一番良かった?」ということ。これは、まあ結構いろんな人からされた質問である。答えは・・・一概には言えない。ここも良かった、ここも良かった、順番を付けることは難しい。ただ言えるのは、旅が上手く進んだ場所には、やっぱり良いイメージがあるということ。逆を言えば、旅が思い通りにいかなかった場所は、イメージが悪い。旅がチョットしたミラクルを含んでうまく進んだのは広島。だから広島のイメージはとても良いけれど、一番かと問われれば、はっきり「はい」とは言えない。やはり難しい質問。それを知りたければ実際旅に出てください、と言うのが一番正しい返答か。

九州は梅雨入りしているのだろうか。毎日愚図ついた天気が続いていた。が、今日は雨はどうやら大丈夫そうである。
この日この旅二度目の洗濯をした。まとめ洗濯。僕はマイケル・ギルモアの「心臓を貫かれて」を読みながら洗濯の終わるのを待つ。テレビでは「いつも笑みを」が流れている。今日で五周年とのこと。そう言えば五年前、僕は東京に住んでいて、この番組の第一回目を観ている。しかもなんと第一回目の放送で、我町の特集が組まれたのだ。東京にいて、地元の特集番組を偶然観る不思議。人口八千人ほどの小さな町が、たまたま取り上げられ、たまたまそれを目にした不思議。あれから五年も経つのかぁ。僕はどのように生きて来たんだろうか。この五年間の記憶は、正直結構な割合で欠落している。まるで何も生きていなかったかのように。
夕方に近づいた頃、僕は桜島を見ていた。その存在感は実にスゴイ。桜島・・・スゴイ。西郷さんもこのような存在感があったのかな。西郷さんの銅像と、桜島は向かい合っているかのようだった。僕も真似て、どうどうと、桜島の前に立つ。欠落した五年間の記憶をよそに、胸を張り、これからだよと。