オンザロード88「もう、風呂も寝床も探さなくていいんだ」

僕とサルパラダイス号は午前10時過ぎには秋田に入った。昼前、自宅の隣の隣りの隣町にあるショッピングセンターで、姪っ子達にお菓子のお土産を買った。ここは僕がよく知る土地だ。僕の地元だ。
思えば旅に出てより、しばらく知人の顔を見ていない。当たり前と言えば当たり前のことだったが、僕にはそれが少し不思議な感じがした。毎日毎日初めてみる顔ばかりを見て来た。毎日毎日だ。それはなかなかできる経験ではなかった。そして思った。久々に見る良く知る顔を目の前にした時、今度はそれはどんな経験であろうかと。僕の心にそれは何をもたらすのかと。もしかしたら何ももたらさないかもしれない。そうだとしても、何ももたらさないということを知る、という経験がそこにはあるはずだった。・・・・結果としてそれは、僕に何ももたらさなかった分けだが、というか、むしろ一種の失望をもたらしたとも言えた。久々に見る知る顔がまずかった。ショッピングセンターよりの帰り道、自宅に近づくサルパラダイス号の中から、久々に見た良く知る顔。それはあの「コウタロ」だった。・・・・お前かよ・・・・。よりによって、お前でなくても良かったのでは。天は最後まで僕に、ハプニングを与えた。
正午過ぎ、僕は家に着いた。家では兄貴と兄貴の嫁さんと、母と祖母が出迎えてくれた。久々の我が家。三カ月ほどにも感じられた旅も、過ぎてしまえばあっという間の何事もなかったような、そんな気もしないでもない。すぐそこのローソンに行って帰って来たような、そんな気もしないでもなかった。
まる五週間九千百三十二キロに及ぶ旅が、今終わった。

PS・・・・・
食事   45807
ガソリン 83346
入浴   14700
洗濯   3000
駐車料金 17760
入場料金 31620
有料道路 9700
お土産  7857
自分の物 6745
本    7765
交通違反 12000
他    20175
他2   10000
現像   11812
合計   282287

もう風呂を探す必要も、寝床を探す必要もない。
この街には僕の家があるのだ。