賢治は、風や雲と交信していた

毎日毎日毎日毎日、僕らは鉄板の上で焼かれて、嫌になっちゃうぜ。
昨日焼かれた僕も、今日焼かれた僕も、明日焼かれた僕も、みんな僕。毎日焼かれては、その日売られ、また焼かれては、その日売られる。売られても売られても売られても、また売られ、焼かれても焼かれても焼かれても、また焼かれる。本当の僕はどこにいるんだろう。本当の僕はどこにあるのか。ただそうやって時は流れゆき、ただそうやって僕は老けて行く。誰かの眼差しが、全部僕に向けられている。誰かの体重がまるで僕の生命線だ。ほら、鉄板の上、今焼かれているのも、良く見ると僕じゃないか。ほらそこで、苦笑いをしながら頷いているのもまるで僕だよ。

昨日花巻市宮沢賢治記念館に行って来た。そしてイーハト―ブ館、そして宮沢賢治童話村。多分、三回目位かな、ここに来たの。8年ぶり位かな、ここに来たの。
童話村で、まるで空の中を歩いているような部屋があるんだけど、そこでナレーションが呟くことがあるんだけど、それがまたなぁ、そうか〜って思ってしまったんだ。

「賢治は、風や雲と交信していました」

「ハッ」、とした。賢治は風や雲と交信していたのかと。そして僕はそれらと交信していないよと。そうか、日々の、日常の、そんなつまらない釣銭は、空にばら撒き、僕はまた凛として、風や雲と交信してみよう。それが出来れば素晴らしいことだ。僕はそんな素敵さが欲しい、僕の日々に。僕の日常に。

誰もが日常の海に溺れそうになった時、風や雲や、それは月や川でもいいのかもしれないが、それらと交信してしまえば、全てがちっぽけな、全てが雄大な、そして僕は僕として瞬間を笑顔に変えられるんではないだろうか。・・・・そうか、賢治は、風や雲と、交信していたんだ・・・・。