一本のシュートを・・・・・

それはジュニアオールスターの舞台で起きた。まさか・・・・。

そしてあれから数カ月。負ければ引退の総体の舞台。もちろん控えスタート。1クオーター残り30秒彼女は登場する。デェフェンスは出来ない。シュートを打つために、一本のシュートを打つために登場したのだ。もちろん指導陣の心遣いだ。チームメートももちろんそのことは知っている。彼女はスリーポイントラインの一番端の場所に位置している。ガードは彼女の一つした、ミニ時代から彼女の妹分として共に全県の舞台で活躍してきた子だ。思いはもちろん強い・・・・その思いから来る焦り、どうしても繋げなければという焦り、それが強引なロングパスに、残念ながら彼女のもともではボールは繋がらない。
2クオーター終了前30秒、再び彼女の登場。もちろん定位置で構える。さぁ、繋がるか・・・・・。でも、テレビのようにはうまくいかないもの、ここでも彼女のもとまでボールは届けられない。チームメイトも、繋げなければと言う思いからその焦りがプレーに出てしまっている。
3クオーター、試合の展開から彼女の登場はなかった。
そして最終クオーター。残り1分のところで彼女再び登場。たくさんの人がそのステージを見ている。他チームの指導陣もコートを見つめていて、まるで彼女のもとへとボールが届けられることを祈っているかのようだ。有名なAコーチは、ミニバス時代に相手チームとして、彼女に苦しめられた一人だ。そのとなり、Bコーチはこの後の試合で、決勝を戦うチームのコーチ。そんな彼らも見守る中、ガードの子がポストへとボールを入れた。ポストプレーヤーの子は、もう彼女の位置を目で確かめるよりも先に、彼女がいるだろう場所へとボールを投げた。・・・・・彼女がボールを受け取る。まるで宝物でも受け取るようにしっかりと受け取る。時間がスローモーションに変わった。会場は一瞬無音にかえる。誰もが息を飲んだかのように。彼女がスリーポイントラインから半歩下がった位置でシュート体勢に入る。正面にいたディフェンスがそれを抑えにかかる。全てがスローで、もうまるでコマ送りのように流れている。彼女の手から放たれたボールはゆっくりと半円を掻いて、リングに吸い込まれるように、当然入るものだよのごとく、ゴ―――ルイン。審判が三本指を立てて両手を高らかに挙げる。それを圧倒する歓声が無音の中から生まれた。観客席総立ち。僕も胸が熱くなった、久々に。ドラマは現実の中にこそあるのだねと、誰かが耳元で囁いた。